目 次   

なごり たから 二人
忘れ物 風に出会う
ひるね 調 合 お前の目玉は
ああ夏休み そうなんだ 夕焼け
夜道 銀色の螺旋 3月の写生
灼熱の恋 感懐 彝訓 
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 なごり

 

子供たちの声が聞こえる

子供たちの笑い声が響く

それが耳の奥に入り込み

心の中に溶け込んで 

指の先まで滲んできた

僕はその指を眺めている

じっと眺めている

      

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たから

あの時の

貴方の言葉が

わたしの宝物

手の中に握り締めていたり

ポケットの中に突っ込んであったり

ほんの間に挟んであったり

貴方はとっくに忘れてしまったでしょう。

大切に、大切にずっと忘れない

 

でもやっぱり もう一度聴きたい

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二 人

時がどれだけ 流れようと

たとえ 覚めない夜か訪れようと

二人で居られるのなら

心はいつもあの日のまま

夢もあの頃のまま

もしも君が居なくなったら 

時がどれだけ手招きしようと

どれほど太陽が輝こうと

心も夢も見失ってしまうと思う

 

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もう少し 僕が優しければ

みんな喜んでくれたのかも知れない

もう少し 僕が我慢強ければ

みんな幸せで居られたのかも知れない

でも、その少しがもう残っていなかった

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 忘れ物

 

忘れてきたような

置いてきたような

そんな気持が止まらない

思い出そうとしても

もう輪郭もあまりはっきりせず

何を探しているのか分からないでいる

 

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風に出会う

 

あの時君の髪をゆらした春の風が

今日僕を優しく包み込んだ

もう、何を話していたかも思い出せない

ただ 君が笑っていた事だけが

微かな記憶に残るだけ

風が過ぎ去るまでのあいだに

高い空を見上げながら

薄れた香りのように感じている

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   ひ る ね     

野っぱらで 昼寝をしたとして

何が見えてくるだろう

今の自分の小さな心

これまでのつまらないプライド

守り続けた大切な優しさ

そんなものを吹き飛ばしてしまう

大きな空と雲が目の前にどーんと

見えるにちがいない

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 調 合 

 

紫陽花の色は

こどもの頃に見た雫のような雨や

麦藁帽子の上に架かった虹や、

虫かごの銀やんまの目玉や、

 松葉ぼたんに隠れていた雨ガエルのお腹や

網戸に飛んできたてんとう虫の星や、

 天井からぶら下がった蚊帳

そんな色が、混ざり合って

君の傘と同じ色になった

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お前の目玉は

通ってなんだろう

毎日幸せな人は、それが普通

毎日辛い人は、それが普通

 

普通よりいい日があれば 喜ぶ

普通より苦しい日があれば 悲しい

 

僕の普通はどうだろう

喜びは、悲しみは

 

そんなことを考えている間に、

カタツムリがツノを出した


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あ夏休み

入道雲に連れられて

また君と遊んだ夏がやってくる

大好きな 大好きな夏

出来るなら戻ってみたい

早起きして捕まえたクワガタ

あの日逃がした銀やんま

ランニングシャツと蝉時雨

スイカを食べてヒグラシの声

待ち焦がれていたあの頃の夏

出来るなら戻ってみたい

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そうなんだ

たくさんの忘れられないことがある

 それより多くの忘却したことがある

そして想い出が出来あがる


たくさんの嬉しいことがある

それより多くの悲しいことがある

だから幸せを感じられる


たくさんの言葉に出せぬことがある

それより多くの言葉を話してきた

今僕は独りぼっちじゃない

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夕焼け

 枝の先に赤とんぼが止まった

そして僕を見ている じっと僕を見ている


何か言った?

もう一匹赤とんぼが飛んできた

静かに促がすように近づいて

赤く染まり始めた空を飛んだ


何か言った?


じきに赤とんぼは二匹で飛んだ

これでいいんだよと応える

 


  夜  道

 暗闇を青白く照らす街燈に

心の影が写し出される。

頼りなさ気な、憂鬱そうな光が

いつの間にか、心の奥底まで差し込んで

みるみる満ちてくる。

僕はそれが溢れないように小さく息を吸い込み

ついには喘ぐ

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 銀色の螺旋

 まどろみの昼が夢に変わり

夜伽の闇がビルに掛かり始める

夜の町は目を覚まし 光り輝き

星空に浮かび上がる

人は悲しみを捨てるために

人は優しさを拾うために

束の間の愛を語る


ドームを乗せたテレビ局 虹の観覧車から映る街

光りの数だけ夢を飲み込む

終わりのない銀色の螺旋


憂鬱な夕陽が三日月に変わり

虚ろな風が不埒に笑いかける

媚薬のような歌声と 誘い声が

煌く海に沈んでいく

人は苦しみを忘れるため


人は喜びを思い出すため

束の間の恋に落ちる

そびえ立つホテル 光りのモノレールに映る街

うしろ姿の優しさだけの

止めどない銀色の螺旋


光の軌跡が道路を流れ オレンジのトンネルに流れ込む

止めどない銀色の螺旋

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  3月の写生

杏の花を眺めながら

杏の花の似顔絵を描いた

大きな目に微笑んだ口もと、悪戯な笑い声

少しもじいっとしていてくれない

ゆらゆらゆらり


僕に話し掛けてくる3月の日向

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灼熱の恋 

近づくだけで、胸がきしむ

命を削って作った言葉を使い

貴方に語りかけている

夜の時が波のように消えていく

いつからこんなになってしまったのか

ぼくの心が壊れ始めた

 

見えなくなるだけで、息が止まる

溶けるような 視線を浴びせないで

貴方の瞳に溶けてしまう

夜の闇が風のように流れていく

ガラスに写る二人は灼熱の幻

私の心が潰れ始めた

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感  懐

生きているということは、即ち這い上がる事である

生憎、悲しみや苦しみなど切ない思いが

澱となって溜まる心の壷を備えているゆえに

黙っていれば、どこまでも落ち込む

動かずにいれば、いつまでも塞ぎこむ

絶えず気鬱な世界に引き寄せられる

 

明日に微かなのぞみを探しながら

ひたすらに喘ぎながら這い上がっている

所詮それが日常なのである

                      
              
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彝 訓(いくん)

勉強することで

人は偉くなったり、尊敬されると思っていたら違います。

人は他人を信じたり、許してあげることで認められるのです。


歳を重ねることで

人は優しくなったり、穏やかになったりすると思っていたら違います。

それは人を傷つけたり、傷つけられて身についてきたのです。


後悔をしないで

人は前に進める、上に登れると信じていたら違います。

人は立ち止まったり、後ろを振り返りながら一生を送るのです 

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